塚本郷とは?

さいたま市の西の端、荒川堤外地(堤防の河川側)に広がる、塚本地区。都心から、わずか22kmの位置にあるこの地域は、荒川中流域の原風景が広がる、さいたま市内最後の里山の一つ。荒川沿いに広がる「農の原風景」が、そこにはあります。

その土地の魅力

この地域には条理遺構が確認されており、古く奈良時代から水田での稲作が営まれてきました。荒川や入間川の氾濫原では、川が運んだ土が積もった微地形をうまく活かして田んぼが配置され、水路から田んぼ、田んぼから田んぼへと水が流れていきます。

地区内には、古い河川跡や、雑木林などもあります。また、かつて人が住んでいた頃に土を盛って家を建て屋敷林がそれを囲んでいた「水塚(みづか)」の跡などもあります。また、市の指定文化財に登録されている薬師堂や、小さな神社なども残り、かつての集落としての面影を残しています。

そんな環境のなかでは、今もたくさんの生きものたちが息づいています。田んぼと雑木林などが連続してつづく場所にしか生息しないニホンアカガエルや、春に地面を埋め尽くす絶滅危惧種のノウルシ、メダカやドジョウといった、かつては当たり前のようにいた生きものたちが、今も生息しています。

大きな変化の中に

今、塚本郷は様々な時代の変化に晒されています。

2019年の台風19号による大雨被害をうけて、国は荒川第二~第三調整池の建設を急ピッチで推し進めることになりました。荒川の河川区域内における民有地の割合は全国一高いこともあり、国は調整池のエリアを面的に買い上げることはせず、囲繞堤(いじょうてい)を造り、大雨の際にはこのエリアに水が溜まるようにすることとしました。現在、河川沿いにあったゴルフ場を廃止して、この囲繞堤の建設が急ピッチで進められています。

台風19号による大雨の水を満々と湛える荒川堤外地
(塚本地区の1つ上流側の様子)

この台風の大雨では、この地区も水に浸かり、多くの土砂が田んぼに堆積。収穫後であったために農作物への直接的な被害は少なかったものの、原状復帰までに多くの労力と時間を要しました。加えて、コロナ過での米の需要の大幅な落ち込みに伴い、米価が大幅安となっています。地区ではもともと、効率的で大規模な農業を目指して圃場整備の話が進んでいましたが、台風と調整池建設、米価の下落で、その機運は大きく削がれてしまいました。それでも、地域の生産者さんは、水田を維持するために、日々、農作業に取り組まれています。